RWA資産をNFTに――。
そんな会話から始まったミッション・ビジョン・バリューの再策定。
なぜこのタイミングで書き直したのか。その背景には、個人的な感情の揺らぎと、事業の方向性をつなぐ必然がありました。
RWA資産をNFTに――会話から始まった再策定
RWA資産をNFTに――そんな話を取締役の杉ちゃんとしていたときに、ふと、ミッション・ビジョン・バリューを書き直さないといけないなと思った。理由は単純だ。事業計画書や会社案内、コーポレートサイトと整合性が取れていないと、第三者に説明したときに、あちこちで矛盾が顔を出す。
デスクに置いてあるスマホからは、ベートーヴェンの月光第三楽章が流れていた(この前演奏会で聴いたばかりだ)。ぼくはとてもエモーショナルな人間で、好き嫌いや、快適・不快といった本能で物事を判断してしまう。
「冷静っぽく装っているけど、好き嫌い激しいよね」と、先日も人から指摘されたばかりだ。うん、たしかに嫌いになると秒でいなくなるかも。

創業期のビジョンには経営者の考えがダイレクトに反映される。好悪の激しいぼくらしく、まずビジョンを「スキをスキと言える社会を創る」――そんな甘い衝動で書き出した。
はじめてNFTに触れたときのこと
初めてNFTに触れたときの感覚は、いまでもはっきり覚えている。
「これなんだろう?」と思って画面を開いた瞬間、転送できない、ダウンロードもできない。その仕様に、心臓を鷲掴みにされた。
インターネットのすごいところは、かつて糸井重里さんが言った「リンク・シェア・フラット」だ。
そこに「時間と距離を超えること」が加わる。だけどNFTは、ネットがずっと持っていなかった感覚――「ここにしかない」「あなたしか所有できない」という実感をもたらした。
NFTは、感情の波をそのまま包み込む器になる。
そこに入れられるのは、ライブの記録やアートのデータだけじゃない。
RWAをNFTにする理由
あるアーティストが残した音や絵をNFTにする話が進んでいる。
不動産会社や伝統文化の承継についての相談も増えてきた。
古い家や土地、職人の技、不変の価値を持つコレクション。
そういったRWA(現実資産)を安全に、透明に、ひとつのデジタル資産としてまとめる。
ありがたいことに、こうしたご相談をいただくことが増えてきた。
感情価値と資産価値が同じテーブルに並んだとき、そこに生まれるのは数字だけじゃない。
そこには、人と人をつなぐ物語や、未来に受け渡されるべき記憶がある。

「スキ」を「スキ」といえる社会
ビジョンに掲げた「スキをスキと言える社会を目指す」。
言葉にすると簡単だ。だけど、実際にそうなるためには、越えなければならない壁がある。
人は、周囲の目や立場、打算や不安のために、本音をしまい込む。
「言っていいのかな」「動いたら壊れてしまうんじゃないか」という不安は、誰しもが感じたことがあるはずだ。
ぼく自身、「スキ」を仕事にしてきたけれど現実はそうでないときのほうが多い。
だけど「スキ」を目の前にしたときの高揚は確かにある。ドーパミンが出ていると実感する瞬間も多い。
ビジネスにおいては、スケーラビリティをどう確保するかという悩みが常につきまとう。
クオリティを求めすぎれば疲弊するし、妥協すれば後悔する。
このせめぎあいは、クリエイターの想いと経済的波及効果のバランスを取り続ける宿命だと思っている。
バリューは日常から
いつだって全肯定のカルチャー。
これはスローガンではなく、ぼくたちの社内の空気そのものだ。
意見が食い違っても、「そんな考えかたもあるんや」「その考えになったプロセス何?」と聞き合う。
「どっちかだけじゃなくて、もう一個アイデア出せないかな」と言い合う。
否定語から入らないことは、もう習慣になっている。
人事的には心理的安全性の高い組織といわれる状態だ。
どうしてそうなったか。
これは、否定される痛みを知っているからだ。
15年前のぼくは真逆だった。人の話を途中で遮り、「それは違う」と即答した。
「わからないならもういい!」とドアを締めたこともある。
ずいぶん変わった。人は言葉で傷つく。だから「他人のスキを否定しない」と決めたのだ。
ほぼ聞き役すぎて「たのむから意見を言って」と言われるほどだ。
なぜ変わったのか――それはまた別の機会に話そう。
文化と経済が交差する瞬間
ニュースで見るオークション、美術展、マンガ原画展。
動員できるから開催されるんだな、と下世話なことを思う。
けれど、その裏には確かに「スキ」がある。
好きなものが経済を動かす。それは、人類がずっとやってきたことだ。
私たちは、それをデジタルで、より安全で、より多様な形でやろうとしている。
NFTとRWAの統合は、文化的価値と経済的価値が同じ場で呼吸するための手段だ。

スキとスキが重なりあう瞬間
「スキ」は、あなたが思っているよりも経済的で、
「資産」は、あなたが思っているよりも感情的だ。
その交差点にあるのは、甘くて、少し切ない衝動――Sweet Emotion。
その二つを同じ器に入れることができたら、世界は少し面白くなる。
私たちはその器を、NFTとブロックチェーンでつくっていく。
そして、そのはじまりはいつだって、あの日の音楽や絵画や笑顔にある。