日本語がおかしなタイトルになってしまいました。脳にある3つのネットワークは、認知神経科学において近年重要な概念であり、脳の活動や機能を理解するために用いられます。脳神経科学者の青砥瑞人さんの著書で詳しく述べられてます。
ところで「利き脳診断」って聞いたことありませんか?右脳左脳についての俗説ですが、そもそも「利き脳」ということ自体存在しません。脳科学者の方々の書籍でも明確に書かれています。
最近の研究でわかってきたのはクリエイティビティは右脳左脳の働き以外に、脳に張り巡らされた「3つのネットワーク」が複雑に絡み合って生まれていることと、このネットワークも疲弊するということです。
以下でそれぞれのネットワークについて説明します。音楽療法がストレスケアにあたえる影響を理解しておくために重要な事柄です。(ここ5年ほど論文や脳の一般書を読んでいたのですが、ここで音楽とつながるとは想像していませんでした。)
デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network, DMN)
デフォルトモードネットワーク(DMN)は、脳の静的状態や休息時に活発になるネットワークです。リラックスしているときの状態ですね。主に前頭前野、後部頭頂葉、前部頭頂葉、脳内の他の特定の領域に存在する一連の相互に関連する脳領域から構成されます。
関与する脳の領域
- 前帯状回(Medial Prefrontal Cortex): 意識や自己認識、社会的な思考に関与する領域です。
- 後部辺縁系(Posterior Cingulate Cortex)および後頭角回(Precuneus): 記憶、空間認識、自己意識に関連する領域です。
- 側頭頭頂皮質(Lateral Temporal Cortex)および側頭楔状回(Inferior Parietal Cortex): 外界の刺激と内部の情報を統合し、自己関連の処理に関与します。
意識の内側での思考や自己関連の情報処理、メモリの整理など、認知機能のさまざまな側面に関与している神経回路です。
休息時や睡眠時に活発化し、外部刺激を受けて他のネットワークが活性化すると抑制される傾向があります。
普段でいうと、ぼーっとしているようで、アイディアが浮かんだり、シャワーを浴びているときに思いついて「メモメモ!」となった経験ありませんか?
なにかに集中しているわけではないのに、アイディアがふっとでてくる。これが「脳の余白時間」で、DMNが活性化しているときに起きる現象です。
考えようと集中すると脳がオーバーヒートしてしまいます。俗にいう「煮詰まってしまった」経験ありませんか。集中や思考を一旦やめ、バランスをとる。音楽療法はこうした時間のための環境を整える役割ももっています。
また、DMNの異常な活動は、精神疾患や神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)などの疾患と関連が指摘されています。そのため、このネットワークの理解は、脳の機能や疾患の研究において重要な役割を果たしています。
セントラルエグゼクティブネットワーク(Central Executive Network)
セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)は、主に前頭前野(prefrontal cortex)とその関連する部分で構成される特定の神経回路です。高次の認知機能や意思決定、行動の制御に関与する重要な脳領域のネットワークです。
タスクってありますよね。いかに効率的に遂行しようか等を実践するときに活性化する神経回路です。
関与する脳領域
- 前頭前野(Prefrontal Cortex): 意思決定、計画立案、問題解決などの高次の認知機能を担当します。
- 側頭前野(Dorsolateral Prefrontal Cortex): 作業記憶や認知制御に関与し、行動の調整や遂行に重要です。
- 前頭楔状回(Anterior Cingulate Cortex): 意思決定や注意統制に関与し、複数の情報源からの情報を統合して行動を調整します。
- 前頭頭頂連合野(Frontoparietal Control Network): 前頭前野と頭頂前野を含むネットワークで、注意統制や認知制御に重要な役割を果たします。
CENは高度な認知機能を担い、複雑な行動や意思決定を可能にする重要な神経回路です。これらの領域が連携して活動することで、人間の行動や思考の柔軟性や効率性が維持されます。
セイリエンスネットワーク(Salience Network)
脳の中で重要な役割を果たす神経回路の一つです。セイリエンスネットワークは、外界からの刺激や内部からの重要な情報に対して注意を向ける、情報処理と調整をおこなうネットワークとされています。
関与する脳の領域
- 前帯状回(Anterior Insula): 感情、味覚、内臓感覚、自己認識などの情報を処理する領域であり、セイリエンスネットワークの中心的な部位です。
- 前頭楔状回(Anterior Cingulate Cortex): 情動処理、注意統制、行動の調整に関与します。
- 側頭前頭回(Frontotemporal Junction): 情報の統合と制御に重要な役割を果たします。
外的または内的な刺激に対する注意の切り替えや調整、そして異常な刺激や状況に対する反応を調節する役割を担っています。このネットワークの活性化は、特に注意や行動の調整、そして脳の異常な情報処理に関連する疾患(例えば、統合失調症や自閉症スペクトラム障害など)において重要な役割を果たすと考えられています。
セイリエンスネットワークは、脳の機能や疾患の理解において注目される神経回路の一つであり、情報処理や注意のメカニズムに関する研究に重要なインサイトを提供しています。
ストレッサーが脳に与える影響
ストレスの要因を「ストレッサー」といいますが、ストレッサーが脳に与える影響は、複雑で多様です。その影響はストレスの種類や強度、個人の対処能力(個性)によって異なります。
生理学的、心理学的、行動学的な多くの側面に及ぶことがあります。特に、長期間にわたる慢性的なストレスは、脳の機能や構造に深刻な変化をもたらす可能性があるため、ストレス管理やリラックス方法の重要性が強調されています。
音楽療法が脳に与える効果
音楽療法が脳のネットワークに与える効果については、主に以下の点で研究が進んでいます。音楽療法は複数の脳のネットワークに影響を与えることが示唆されていますが、特に以下の2つのネットワークに焦点が当てられています。
1. デフォルトモードネットワーク(DMN)
- 効果:
- 音楽療法はデフォルトモードネットワーク(DMN)に影響を与えることが示唆されています。
- 研究によると、音楽を聴くことや演奏することが、DMNの活性度や連結性に変化をもたらし、リラックスや内省の状態を増強する可能性があります。
- エビデンス:
- 例えば、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)による研究では、音楽療法によりDMNの活性が増加し、リラックス状態が促進されることが観察されています。
- また、音楽療法が抑うつ症状を改善する際にも、DMNの変化が関連しているとされています。
2. エグゼクティブネットワーク(ECN)
- 効果:
- 音楽療法はエグゼクティブネットワーク(ECN)にも影響を与える可能性があります。
- 特に、音楽の演奏やリスニングは認知的な機能や注意の制御に関与し、ECNの活性化を促すことが報告されています。
- エビデンス:
- 最近の研究では、音楽療法が認知機能や注意力、問題解決能力の向上につながることが示唆されています。これはECNの活性化と関連している可能性があります。
臨床データはまだすくないものの福祉施設や病棟で音楽療法が用いられるのは、認知機能や脳の発達を支援するという意義からが多いのかもしれません。
その他の影響
- 音楽療法は他にも、感情処理や運動制御など、脳のさまざまな領域やネットワークに影響を与える可能性があります。
- 特に、音楽療法が脳内の報酬系や感情の処理にも関与することが示唆されています。
総括すると、音楽療法は脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)やエグゼクティブネットワーク(ECN)など、さまざまな神経ネットワークに効果をもたらす可能性があります。これらの影響は、リラクゼーションや認知機能の向上、感情の調整などに関連しており、臨床やリハビリテーション分野での音楽療法の有用性を支持するエビデンスとなっています。
またストレスによってネガティブバイアスにとらわれると、人の身体はストレスホルモンであるコルチゾールやアドレナリンの分泌が増加し、これが脳内の神経伝達物質のバランスを変化させます。特に、前頭前野や海馬などの脳の重要な領域での神経伝達が影響を受け、情動や記憶の処理に変化が生じます。
つまり仕事の生産性が低下する、記憶力が低下しミスコミュニケーションがおきる、意思決定能力や問題解決能力が低下するといったことはもちろん、生理学的な機能や抗ストレスシステムが低下し、全体的な健康状態が著しく低下することがハンス・セリエの研究からわかっています。
「先生、原因はなんですかね?」「ストレスじゃないですか」という会話に思い当たる節がありませんか?
マインドフルネスといい、音楽療法といい脳の3つの神経回路に好影響を及ぼすことが判明しつつありますね。